Event Report: C&Cユーザーフォーラム & iEXPO 2017

NEC未来創造会議

第2部 テーマ(2)「人が豊かに生きるとは?」
プレゼンテーション

個人が自己実現できる公平な社会

評論家 荻上チキ氏によるプレゼンテーション

私の専門はメディア論ですね。ポール・ヴィリリオという哲学者が、メディアの発明あるいは技術の発明というものは事故の発明である、と言ったわけです。例えば、車の発明というものは、自動車事故を生みます。原発の発明も、原発事故を生みます。あるいは、そのような物理的事故だけではなくて、期待を裏切る、ということもあります。飛行機が時間通りにやってこなかったりすると、人々の約束を助ける、誰かと誰かを合わせる、そうしたコミュニケーションの領域においても事故が起きるわけです。

インターネットメディアも新しいアクシデントが生まれます。ネット上で炎上、情報の流出、リベンジポルノ、ヘイトスピーチなど。ブレインネットの時代であれ、AIの時代であれ、おそらく新しい事故というものを作るでしょう。そうした新しい事故に備えて、新しいルールなどを私たちは作っていかないといけない。

新しい暴力や新しい差別に対して、私たちがすべきことは何かというと、新しい公平、新しい整理、新しい権利を作っていくことです。公平という点で言えば、デバイスに対するアクセシビリィティというものが、これからも様々な経済格差をもたらしてくるでしょう。人々の格差を拡大するものではなくて、人々の格差を公平にしていく。それは、アーキテクチャーが自動的に行うのではなく、アーキテクト、設計者が技術にどのような新しい規範、新しい倫理、そうしたものを埋め込めるのかということが重要になってくるわけです。
長い歴史を振り返ると、メディアが登場するたびに、新しい社会の規範を模索している。その規範を作ろうとする作業、止める作業もまた、人が行うわけですけれども、そうした力に負けじと、新しい想像、新しい世界感を作っていく。そうした動きが、これから必要になってくるのではないでしょうか。どのような規範が必要なのかということは、皆さんとまた議論できればと思います。

荻上チキ氏の写真

評論家

荻上チキ氏

人間の幸せ 豊かさとは

慈眼寺住職 塩沼亮潤氏によるプレゼンテーション

皆さんこんにちは。人間がいかによりよく豊かに生きていくか、様々な議論がこれから先も続いていくと思います。その一つは、私たちはいかに、この人生の中で喜びを感じるか、ということだと思います。

例えば、「ありがとう」という言葉。そこでは、「思い」と「言葉」と「行動」が伴って初めて、真実が相手に伝わるのだと、私は師匠から教わりました。このうちどれが欠けても、心にぐっとくるようなありがとうはない。横になって、言葉だけで「ありがとう」と言われても、それはあまりありがたくないと思います。コンピュータや AI は言葉を聞き、そして文字にして、それをツールにして、コミュニケーションをとることができるでしょう。しかし、私たちには「心」があります。この心の部分を、我々人間が磨いていかなければならないことだと思います。

ある日のこと、「塩沼さんじゃないか」と声をかけられました。「いや、実は、あんたの本読んだんだよ。その本の中に、“はい”という返事はわずか1秒にも満たないけれども、自分の心を全て表してるって書いてあるだろ。毎朝会社に行く前に、ウチの女房が “お父さんゴミ出してって” って言うんだよ。俺は毎日腹立ってた。自分は毎日寝てるんだから、ゴミ出すぐらい自分で行けよと思ったけど、言うのもめんどくさくてさ、言わなかったんだよ。でも塩沼さんの本を読んで、次の日から“お父さんゴミ出してきて” と言われたら、“はい” って言っていたら、一週間経ったらご飯の盛りが良くなってさ、1カ月経ったら夫婦が仲良くなっちゃって。本当にありがとね」と。「はい」という言葉ひとつでも、心と心が通い合うその喜びを感じることができるのです。

電気もなく、また人工知能もなくても、身近な喜びというものがあると思います。われわれは、大自然の中で生かされております。とても微妙でかつ素晴らしいバランスで保たれているこの地球というものに、包まれております。それを考えたならば、ここで生活しているだけでも、感謝だと思います。

時代は急速に変化しております。けれども変わってはいけない何かがあるのだと思います。それをしっかりと軸にしながら、私たちの生活をこの人工知能とコンピュータと共生・共存し、そして、安心で公平な社会が実現することを心から願っております。

塩沼亮潤氏の写真

慈眼寺住職

塩沼亮潤氏

第2部 テーマ(2)「人が豊かに生きるとは?」
パネルディスカッション

技術は人の暮らしをどう変えるか

石器時代、洞窟に暮らしていたケイブマンの頃から人の本質は変わらないと話すのは、ニューヨーク市立大学教授のミチオ・カク氏である。
「科学は繁栄の原動力です。でも、それは幸福の原動力ではないのです。科学のおかげで人間はより幸福にはなりません。ハイテクの時代になっても、例えば、ペーパーレスになるって皆さん言っていました。紙はなくなると言われていたのに、これまで以上に紙が増えたと思いませんか。なぜでしょうか。それは、ケイブマンの原則があるからです。狩猟民族であるケイブマンにとって、実際に獲物を得たという物的な証拠が大切です。紙はその物的な証拠です。画面に電子で字が見えたとしても、それは信用できません。石器時代から変わらないケイブマンの原則、人間は満足することを『足るを知らない』のです。常にもっと欲しがる。どんなに科学の力でいろいろと得られるようになったとしても、絶対に文句を言います」。科学は、幸福の原動力ではないからです。

パネルディスカッションの様子

また、東京大学大学院准教授の松尾豊氏は、AIの技術が単なる効率化ではなく、どのような変化をもたらすのか、次のように話す。
「僕はよく人工知能の話をすると、知能と生命の話がこんがらがると思っています。生命というのは、生き残る力が非常に強いので、それは進化の過程の中で非常に強くできているわけです。知能というのは、目的が与えられた時の問題解決の力なので、将棋のように勝つという目的が与えられると、それに対しての学習というのができるというような、要するに道具なのです。そう考えると、人間というのは知能を持った生命であって、知能の部分を工業的、工学的に利用するといろんな便利なものができますが、満足するかどうかというのは、生命性で決まっているということだと思います。人間の生命性、本能だとか感情だとかというのは非常に社会性を持った動物というところに支配されているので困っている人がいると助けるとか、あるいは仲間と協調して敵と戦うというのは本能的な行動なのです。

少し極端な言い方かもしれませんが、今でも大半の仕事は意味がなくなっていると思っていて、それでも、例えば競合の企業よりももっと製品を売りたいだとか、もっと勝ちたいだとかで、いろいろ戦っている。だから、僕はどんなにAIが進んで便利になっても、生産とは関係のないところで多分、人は味方を作り、仲間を作り、敵と戦うし、その中で誰が偉い、誰が頑張った、という話をし続けるのではないかと思っています」。

パネルディスカッションの様子

人はどんな条件下で豊かさを感じるか

しかし、閉じられた社会の中で暮らしていた時代と、様々な情報が容易に手に入るグローバルな世界とで、豊かさの感じ方が違ってきいいることは、間違いないだろう。多様性と向き合う技術はAIに期待されているものでもある。

「技術のおかげで幸福は増した」と話すのは、『WIRED』誌創刊編集長のケヴィン・ケリー氏だ。
「AIが進んでいくと、どんどん幸福は増えると思うのです。幸福というのは、単一の次元のものだと皆さん思いがちですが、本当に複数の次元があるのです。いろいろな種類の幸福があるじゃないですか。満足度とか、安心感も、幸せですよね。それから喜びとか。安全、安心というところの幸福度は、ここ200年、科学のおかげでずいぶん変わってきています。感情的な部分は、石器時代の人間の感性があるので、変わっていると感じない人もいるかもしれませんが…。幸福度の計り方を考える時には、いろいろな方向性や種類のものがある。そして、私たちの幸福が何であるのか、それが複雑なものであるということを理解することも一つの発見だと思います」。

「私は、人が豊かさを感じるってどういうことなのかということを考える時に、他の人とか他のグループと比較する、という要素が非常に大きいと思うのです。グローバルな時代になって、たくさんの情報をたくさんの人々が共有するということになると、一つの社会に生きていて、そこしか知らなくて、それだけで満足しているという状況が起こりにくくなっている。では、どういうものが豊かさになるのかと言ったら、他の人は他の人で、自分たちは自分たち、ということで、いろいろな考え方であったり、生き方であったり、それを気にしないとか、それを認めるとかいうようなことが、非常に満足するとか、豊かさに繋がるのではないかと思っているのです。テクノロジーそのものは進んでいきますし、素晴らしいものとは思いますが、その先が、管理するものとか、収束するものであるということに進めないということが、非常に大事になってくるのではないかと思っています」と、将棋棋士の羽生善治氏は話す。

「人は、相対的剥奪感を得るので、常にその時代の中で、自分は持っていない、格差の下にあるという人たちは生まれてくる。だから、その時代なりの不幸というのは必ず出てくるのです。そして、相対的な尺度の位置というのはどんどん変化をしていくわけです。その尺度に、より敏感な人が異議申し立てをして、今の尺度がとても狭められているということを言い続けることによって、社会を拡張するという動きに繋げていく必要がある。AIなどは、それをビックデータで可視化したり、インターネットは声というものを繋げて、ソーシャルデモというものを生んでいって、国家に届けたり、社会に訴えていったりということに使えるのではないか」と語るのは、評論家の荻上チキ氏だ。

そして、慈眼寺住職の塩沼亮潤氏は、人の心の有り様を語った。
「今からお話するのは2500年前に釈尊が当時の王様である波斯匿王(はしのくおう)という王様にした説法ですが、人間の心の動きというのは4種類しかないと。光から光へ生きていく人間、光から闇へ生きていく人間、闇から闇へ生きていく人間、あるいはこの闇を転じて光ある世界へ生きていく人間。光というのは、我々が理想とするべき心の在り方、そして生き方を示します。闇というのは、どうしてもプラスがあればマイナス、相対的になっています。
社会も、そして世界も、我々一人一人の小さなこの心がどっちの方向を向いているかによってプラスに行くこともできるし、マイナスに行くこともできる。『自分一人なんて」という考えではなく、この自分一人の世界の中から、この心の中から世界の安心であり、安定したその世界が作りあがってくるのだと私は感じます」。

ケヴィン・ケリー氏の写真

「WIRED」誌 創刊編集長

ケヴィン・ケリー氏

パネルディスカッションの様子

多様な視点からの議論を未来にどう繋げるか

これまで、全5回にわたりモデレーターを務めてきたロフトワーク代表取締役の林千晶氏は、次のように話す。
「1部と2部のセッションを通じて、人間とAIが共存することによって、今までと違う創造性とか、可能性が生まれてくる話がありました。あるいは、変わらない部分と変わる部分ってどうかというところでは、尺度の問題で、もっと複雑な尺度が生まれてきたら、実は変わっているし、もっと多様になれるというような話もありました。この未来創造会議で議論してきたことは、どんな新しい視点の発見になったのかということを今後、聞いてみたいですね」。

林 千晶氏の写真

ロフトワーク 代表取締役

林 千晶氏

そして最後に、NECの江村克己CTOが本日の振り返りと、今後の抱負を語った。
「いわゆるサイバーの世界で相当なことができるようになってきているわけですが、そこでデザインされたものを実際の社会に戻していく時に、いろいろな制約が実はあります。それは制度の問題だったり、規範と言っている問題だったり、人の受容性ということもあるし、技術的に本当にそこをカバーできるの?という問題もあります。やはり人という議論をしていましたが、リアルな世界で本当に何ができるのか、ということを具体的に考えていかなければいけないフェーズに入ってきています。
未来創造会議は、非常にチャレンジなことをやってきて、少し論点が絞られてきている中で、それを具体化する、リアルなアクションを議論できるフェーズというのをぜひやりたいというふうに思っています。そして、その時にNECは何ができるのかというところに、次は落としていきたいと思っているのです。そういう形でチャレンジをしていきながら、将来に向けたメッセージに繋げていきたいと思いますので、ぜひ引き続きよろしくお願い致します。ありがとうございました」。

江村 克己の写真

NEC チーフテクノロジーオフィサー(CTO)

江村 克己

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